2025年6月15日放送のNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第23話「我こそは江戸一利者なり」。
蔦屋重三郎(横浜流星)が狂歌指南書の大ヒットで“江戸一の目利き”と称され、日本橋進出への大きな決断を迎えます。
同話では吉原での絆や葛藤、幕府・田沼派の政治動向、誰袖による蝦夷地密貿易の伏線も同時に描かれ、物語がさらなる深みへ突入する回です。
- 蔦重が日本橋進出を決意した背景
- 幕府内政局と誰袖による蝦夷密貿易の伏線
- 女将ていとの出会いと今後の人間ドラマ
蔦重、狂歌ヒットで「江戸一の利者」に昇華
蔦屋重三郎が出版した狂歌指南書『浜のきさご』が爆発的に売れ、耕書堂の名は江戸中に鳴り響きました。
狂歌師・太田南畝(桐谷健太)の人気も追い風となり、蔦重の「目利き」としての才覚が一気に広く認知されていきます。
この成功は単なる一冊の売上にとどまらず、江戸の出版文化に蔦重が大きな爪痕を残す布石となりました。
『浜のきさご』が江戸で大ブーム
奇抜で風刺に富んだ狂歌を集めた『浜のきさご』は、町人たちの笑いと風刺精神を見事にとらえた一冊。
「堅い本より面白い本が売れる」という蔦重の信念が形となった瞬間でもあります。
このヒットにより、蔦重は出版人としてのステージをひとつ上げることになります。
須原屋から日本橋進出を勧められ決意
『浜のきさご』の大成功により、老舗書肆・須原屋(里見浩太朗)は、蔦重に「日本橋に出て、本当の勝負をしてみないか」と声をかけます。
蔦重は最初こそ躊躇しますが、亡き平賀源内との「本で世を変える」という誓いを胸に、日本橋進出を決意します。
「郭者の小商いが、江戸の真ん中で堂々と暖簾を出す。これがどれほど意義あることか!」──蔦重の声には吉原者としての誇りと反骨が宿っていました。
吉原と日本橋、アイデンティティの葛藤
日本橋進出を志す蔦重にとって、最大の障害は「仲間との絆」でした。
吉原の仲間たちにとって、彼が“外”に出ることは裏切りにも等しい──それでも、蔦重は前に進まなければならなかったのです。
なぜならそこには、文化と商売を通じて吉原の地位を押し上げるという、もう一つの野心があったからです。
泉の差別的葬儀に怒り、日本橋へ飛び込む理由
吉原の恩人・泉が亡くなり、その葬儀で吉原者たちは「屋根のない場所に通され、雨ざらしにされる」という屈辱的な扱いを受けました。
その現場を目の当たりにした蔦重は、激しく怒りを覚えます。
「ならば外に出て、吉原の名を正面から掲げてやる」──その決意こそが、日本橋進出の核心だったのです。
駿河屋や戯作者たちとの絆と葛藤
これまで共に出版文化を育ててきた駿河屋、西村屋、戯作者たちの一部からは、「蔦重が変わってしまうのでは」と不安視する声も上がります。
しかし蔦重はこう言い切ります。
「俺が日本橋に出ることは、吉原にいる仲間すべての誇りになる」
その言葉には、絆を裏切らないという強い覚悟が込められていました。
幕府・田沼派の動きと蝦夷地密貿易の伏線
一方、蔦重の物語とは別軸で進行するのが、幕府内の政局と蝦夷地を巡る権力争いです。
この第23話では田沼一派の増長と、それに対抗しようとする者たちの動きが浮き彫りとなりました。
吉原・出版文化の裏で、国家の利権をめぐる水面下の動きが静かに熱を帯び始めています。
田沼意知・意次による増長と政治力強化
田沼意次が勘定奉行となり、その息子・意知(寛一郎)も政治的な発言力を高めていきます。
老中首座・田沼派による幕府支配が強まり、政敵たちは身動きが取れなくなっていく様子が描かれました。
そして、田沼派とつながる商人たちの影も描写され、政治と経済が密接に絡む江戸の権力構造が浮かび上がってきます。
誰袖と松前廣年の琥珀をめぐる密貿易企て
その中で注目すべきは、誰袖(福原遥)による蝦夷地密貿易の動きです。
彼女は松前廣年に対し、「商人を通さず直接ロシアと取引を」と提案。
これはつまり、幕府の流通支配に対抗する独自ルートの構築を意味していました。
琥珀をめぐる駆け引きは、単なる宝石取引にとどまらず、国防・貿易・外交の火種にもなりかねないスケールの大きな陰謀を孕んでいます。
今後、誰袖と佐野正子、松前藩との三角関係がどのように交錯していくのかが、物語の鍵の一つとなるでしょう。
蔦重、新キャラ“てい”との出会い
日本橋進出を決意した蔦重の前に現れたのが、本屋・丸屋の女将「てい」(橋本愛)です。
初対面の場面では、ていは毅然とした態度で蔦重を迎え、「あなたのやり方では、この町では通用しません」と釘を刺します。
この出会いは蔦重にとって“日本橋という異文化との遭遇”でもあり、物語は新たな局面に突入します。
丸屋の女将・ていが蔦重の日本橋挑戦を象徴
丸屋は長年日本橋で商売を続けてきた由緒ある本屋。
その女将・ていは、商才にも気骨にも優れた人物で、蔦重の“攻めの出版”に対して懐疑的な立場を取ります。
だがその一方で、ていもまた日本橋という土地で何かを変えたいという、内に秘めた熱さを持っていました。
橋本愛演じる“未来の妻”キャラクターの意味
視聴者にとって興味深いのは、この「てい」が史実にほとんど記録がない存在であることです。
つまり、ドラマ『べらぼう』はこのキャラクターを通じて、蔦重の内面や時代との葛藤を描こうとしているのです。
ていの初登場シーンは一見静かですが、蔦重との対等な対話はこれまでの女性キャラとは一線を画し、明らかに“特別な存在”としての気配を放っています。
今後、2人の関係がどのように変化していくのか──その予兆が、すでにこの第23話には色濃く表れていました。
第23話が描く〈絆と野心〉の二重構造
『べらぼう』第23話は、蔦重の野心だけを描いた回ではありません。
仲間たちとの絆、失われた命への悲しみ、そして踏み出す勇気。
それらが静かな決意と共に重層的に描かれる構成に、視聴者の多くが「心を揺さぶられた」と感じたのではないでしょうか。
吉原の仲間との決別と恩返しの心情
「吉原から外へ出ること」が“裏切り”と捉えられかねない中、蔦重は言い切ります。
「自分が表の世界に出ることで、裏の世界が誇りを持てるようになる」
これは、単なる出版商人の論理ではありません。
吉原という被差別空間への愛と、そこに生きる人々への恩返しを誓う、蔦重の覚悟そのものです。
蔦重のビジョン─「江戸一の目利き」から文化発信拠点へ
狂歌、錦絵、黄表紙――“面白い”の中に“批評”がある。
蔦重が発信するものは、どれもが単なる娯楽ではなく、江戸の人々の視野を広げる「文化の武器」です。
第23話の終盤、彼は日本橋という舞台にこう宣言します。
「ここから、おもしろくてためになる世直しを始める」
その言葉には、江戸という大都市を相手に、“読み物”で革命を起こそうとする男の野心が満ちていました。
- 蔦重が江戸一の目利きとして新たな挑戦へ
- 吉原の仲間との絆と決別が交錯する展開
- ていとの出会いが未来への伏線に
- 田沼派の政治と蝦夷密貿易の裏側も進行
- 文化と野心、誇りと差別が交差する重厚な回
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