「彼女がそれも愛と呼ぶなら」第9話では、水野伊麻がこれまでの人生で貫いてきた“複数恋愛”という価値観に、大きな揺らぎが訪れます。
年下の恋人・氷雨からのプロポーズ、娘・千夏のまっすぐな言葉、そして親友・絹香との微妙な距離感——。
周囲の変化と向き合いながら、“本当に誠実な愛とは何か”を自問する伊麻の姿が、胸に深く刺さる回となりました。
- 氷雨のプロポーズがもたらした伊麻の葛藤
- 登場人物たちの恋愛観の変化と決断
- “愛のかたち”を問い直す第9話の核心
氷雨のプロポーズと伊麻の揺れる心
第9話は、年下の恋人・氷雨からの突然のプロポーズで幕を開けます。
「自分だけを愛してほしい」と告げる氷雨の真剣な想いに、伊麻は即答できず戸惑いを見せます。
これまで“複数恋愛”という価値観で生きてきた彼女にとって、それはこれまでの自分を否定するような問いでもありました。
氷雨の言葉は、「僕だけを愛してほしい」というストレートな願いでした。
それは決して強要ではなく、氷雨なりの誠実さからくるもので、「誰か一人とちゃんと向き合いたい」という彼自身の成長の証でもあります。
そんな彼の真摯な瞳を前に、伊麻は返事を濁すしかありませんでした。
なぜなら、「イエス」と答えた瞬間、自分のスタイルを手放すことになるから。
伊麻はこれまで、「ひとりの人だけを愛することは、自分の正直さを曲げることになる」と考えてきました。
だからこそ“複数恋愛=誠実”という立場をとってきたのです。
しかし、氷雨との関係が深まるにつれ、自分の中の価値観がわずかに揺れ始めていることにも気づきます。
それは、“誰かのために変わりたい”と思う心の芽生えなのかもしれません。
このプロポーズは単なる愛の告白ではなく、伊麻が自分自身の愛のかたちと向き合うきっかけになったのは間違いありません。
そしてこの問いは、第9話を通して彼女を静かに、しかし確実に変えていくのです。
別れと再出発|到と亜夫の選んだ未来
氷雨のプロポーズをきっかけに、伊麻の周囲でもそれぞれの人生が動き出します。
特に元恋人・到と亜夫の決断は、“伊麻のいない人生”を歩み始めるための第一歩として描かれました。
彼らの口から語られる「本音」は、これまでの静かな関係性に終止符を打つものでした。
まず到は、「俺は父親になれなかった人生を、千夏で埋めようとしていたのかもしれない」と語ります。
この言葉に、筆者としても胸を締め付けられました。
彼が伊麻や千夏と過ごしてきた時間は、愛情だったのか、それとも過去の補完だったのか。
その迷いと誠実な自問は、自分自身を取り戻すための別れでもあったのでしょう。
一方の亜夫は、復縁した恋人・駿との未来を選びました。
彼の表情にはどこか吹っ切れたような晴れやかさがあり、「誠実でありたい」という想いが伝わってきました。
それは、過去の甘えを断ち切る強さでもありました。
複数恋愛という“やさしさ”の中に隠れていた不誠実さに、彼自身が気づいたからこその選択だったのかもしれません。
到も亜夫も、伊麻を責めることなく、それぞれの人生を選び取っていきました。
その姿は、“複数の人と関わる”ことの終わりではなく、新たな自分を生きる覚悟の表れのように思えます。
このふたりの選択が、伊麻に大きな影響を与えたことは言うまでもありません。
娘・千夏が見つけた“自分だけの愛の形”
母・伊麻の生き方を見つめ続けてきた娘・千夏は、第9話で自分なりの「愛の形」をはっきり言葉にします。
「私は一人の人を大切にしたい」——そのまっすぐな思いは、伊麻にとっても、私たち視聴者にとっても心に響くものでした。
これは、若さゆえの理想論ではなく、千夏が“母とは違う愛のあり方”を真剣に考え抜いた末の決意です。
千夏の選択は、母の複数恋愛を否定するものではありません。
むしろ「お母さんの生き方も尊敬してる」と認めたうえで、自分は違う道を選ぶという、成熟した選択でした。
この対話のシーンは、親子という近すぎる関係だからこそ生まれる、静かで深い衝突でもありました。
それは衝突というより、“価値観の対話”というべきものでしょう。
伊麻にとって、娘が「母と同じではない道」を選んだことは、少なからず動揺だったはずです。
しかしその中で、千夏が母親の愛を否定していないこと、そして「私は私なりに、誰かを大事にする」と決意していることに、きっと救われたはずです。
親子であっても、恋愛の価値観は一致しない。
でも、お互いを尊重しあえる関係が築けていること自体が、すでに“愛の証”なのかもしれません。
友情の変化|絹香が選んだ恋のあり方
伊麻の長年の親友・絹香にも、恋愛に対する“揺れ”が訪れます。
彼女はこれまで伊麻の複数恋愛を肯定し、寄り添ってきましたが、第9話では「一人の人と誠実に向き合いたい」と明かします。
この言葉は、伊麻との友情に変化をもたらすものでした。
絹香の選択は、どちらかが正しくてどちらかが間違っているという話ではありません。
むしろ、“お互いに違う生き方をしても、信頼は続けられるのか”という問いを突きつけてくるようでした。
伊麻は、絹香の変化に複雑な表情を見せながらも、否定することはありません。
ただ、これまで共有してきた価値観が少しずつ離れていく感覚を、どこか寂しげに受け止めているようにも見えました。
友情とは、本来「同じであること」に依存しないもののはずです。
けれど恋愛観というセンシティブなテーマにおいて、親しい人の変化は、ときに“距離”として感じられてしまうことがあります。
絹香の誠実な告白は、むしろ彼女が伊麻を信じているからこそ生まれた言葉なのかもしれません。
そしてそれをきちんと受け止めた伊麻の静かなリアクションも、本物の友情の証だと感じました。
このシーンは、恋愛だけでなく“友情にもかたちがある”ことを教えてくれます。
変わっていく相手を受け入れる覚悟、それもまた大人の人間関係なのだと思いました。
氷雨の選択|“一緒にいる”ことを諦めた理由
第9話の終盤、氷雨は伊麻の元を離れる決意をします。
それは彼にとって“愛を捨てる”のではなく、自分自身を守るための決断でした。
「このままじゃ僕が壊れてしまう」という言葉には、長く抑えてきた苦しみがにじんでいました。
伊麻を愛していたからこそ、複数恋愛を理解しようと努めてきた氷雨。
でも、“自分だけを見てほしい”という気持ちを押し殺し続けることが、少しずつ彼を追い詰めていったのです。
それは決してわがままではなく、「自分の心に正直であること」への誠実さでした。
伊麻のことが好きだからこそ、彼は離れるしかなかったのだと思います。
彼の選択は、伊麻にとっても痛みを伴うものでした。
でもその痛みの中に、これまでの“愛の形”では支えきれなかった関係の限界が、静かに描かれていました。
氷雨の背中を見送る伊麻の表情には、どこか納得したような、でも割り切れない複雑な感情が浮かんでいました。
“一緒にいること”が必ずしも“愛し合うこと”とイコールではない。
このエピソードは、愛しているからこそ別れるという選択があることを、私たちに静かに突きつけます。
彼女がそれも愛と呼ぶなら第9話まとめと今後の注目点
第9話は、登場人物たちそれぞれが“自分なりの愛のかたち”に向き合い、大きな決断を迫られるターニングポイントでした。
氷雨のプロポーズから始まり、到・亜夫の再出発、千夏や絹香の変化、そして氷雨の別れまで、一つ一つが伊麻の心を深く揺さぶっていきます。
この回は、単なる恋愛模様ではなく、“人と人がどう関わるか”という根源的な問いを描いていたように思います。
これまで「複数恋愛こそが誠実」と信じてきた伊麻。
でも大切な人たちが次々に自分のもとを離れていくなかで、彼女は初めて“誰かひとりを想うこと”の重みと向き合い始めます。
それは、今まで守ってきた価値観を見直す痛みでもありました。
視聴者としても、伊麻と一緒にその迷いに触れ、自分の中の愛の定義を静かに問い直す時間となったのではないでしょうか。
残り2話となる本作は、いよいよクライマックスに向けて大きく動き出します。
氷雨との関係は本当に終わってしまうのか。
そして伊麻は、“誰か一人を選ぶ愛”にたどり着くことができるのか。
次回、彼女の選択に注目が集まります。
- 氷雨の真剣なプロポーズが伊麻の価値観を揺らす
- 到・亜夫の旅立ちが、複数恋愛の終わりを予感させる
- 千夏と絹香の選択が伊麻の心を静かに動かす
- “誰か一人を愛する”ことの意味が問われる展開
- 次回、伊麻がどんな愛の形を選ぶかが最大の注目
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