2025年NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第21話「蝦夷桜上野屁音」は、政治と芸能の両面で大きな転換点を迎える重要な回です。
田沼意次と意知が進める蝦夷地天領化計画の裏には、密貿易や外交の駆け引きが絡み、緊張感が高まります。
一方、蔦屋重三郎と歌麿の錦絵制作、吉原での狂歌の宴では人間模様が深く描かれ、政と芸が交錯する重層的な展開が魅力です。
- 田沼親子による蝦夷地天領化計画の全貌
- 蔦重と歌麿の絆と出版業界のリアル
- 吉原の宴で交錯する密告と人間ドラマ
蔦屋重三郎と歌麿、錦絵にかける挑戦
出版業界の厳しい現実に直面する蔦屋重三郎と、その相棒とも言える絵師・喜多川歌麿の奮闘は、第21話のもう一つの大きな軸です。
自信を持って世に送り出した錦絵『雛形若葉』が振るわず、蔦重は精神的にも経済的にも追い詰められていきます。
しかし、その中で彼は「絵が売れる仕組み」と真正面から向き合い、ひとつの成長を遂げていきます。
『雛形若葉』の不振と「指図」の重要性
蔦屋と歌麿がタッグを組んで制作した錦絵『雛形若葉』は、鮮やかさや細部の描写にこだわった意欲作でした。
しかし市場では受け入れられず、販売不振に悩む蔦重は、本屋仲間からも圧力を受けます。
そんな中、ライバル鶴屋の政演が手掛けた青本『御存商売物』が爆発的な売れ行きを見せ、蔦重は自身のプロデュース力の欠如を思い知らされます。
北尾重政の助言により、「指図」、つまり絵師や摺師に対して本屋がどれほど具体的な指示を出すかが完成度に直結することを知る蔦重。
「錦絵の西村屋」と評されるほどの名声は、精緻な指図によって支えられていたことを重政に教えられ、蔦重は改めて制作の根本を見直します。
その結果、摺師・七兵衛とともに作品の完成度を向上させ、『雛形若葉』はようやく形になるのです。
絵師交代と歌麿との友情の再確認
改良版『雛形若葉』で一部の評価を得た蔦重でしたが、次なる女郎絵の制作では思わぬ事態が待っていました。
吉原の旦那衆は「歌麿ではもう売れない」と判断し、代わりに人気急上昇中の政演を絵師に起用するよう求めます。
蔦重は葛藤の末、歌麿にその決定を伝えることに。
プライドを傷つけられかねない内容ながら、蔦重は正直に、誠実に説明し、「お前を蔦屋史上一番のそうきたかにしたい」という熱い言葉で締めくくります。
この場面で、歌麿は蔦重の覚悟と友情を理解し、穏やかに了承します。
職業的な信頼関係を超えた人間同士の絆が垣間見える印象的な場面です。
ここには、売れることだけを目的としない「志ある出版」の姿勢が表れているとも言えるでしょう。
「うた麿大明神の会」で名を売る試み
商業的な結果が出ず、吉原側からも厳しい評価を受けた中で、蔦重は歌麿の名を何としても世間に広めたいと考えます。
そこで開催されたのが「うた麿大明神の会」。
これは一種のプロモーションイベントで、狂歌の宴と合わせて歌麿の錦絵を紹介することで、彼の名声を押し上げようという狙いがありました。
結果的にこの会で新たな人脈や評価の糸口が見え始め、歌麿はゆっくりとですが名を上げていく兆しを見せます。
蔦重の情熱が、出版という商売の枠を越えて、人を育てるという次元にまで達していることが感じられます。
「売る力」だけでなく「育てる力」も出版社の器量だというメッセージが込められているように思えます。
吉原の狂歌会で起きた意外な展開
第21話の中盤から後半にかけては、吉原を舞台にした人間模様と政治の交錯が描かれます。
華やかな花見の宴、狂歌会という風流な場面を通じて、裏で密かに進行する陰謀や心の葛藤が浮き彫りになります。
花魁・誰袖の動きや、「花雲助」という謎の人物の正体など、サスペンス色のある展開も見逃せません。
「花雲助」の正体と密談の瞬間
大田南畝を中心とした狂歌仲間たちが開いた吉原の花見の宴。
そこに現れた謎のイケメン「花雲助」は、実は変装した田沼意知でした。
蔦重は気づきませんが、吉原の女郎・誰袖はその男の只ならぬ雰囲気を敏感に察知します。
意知と誰袖は密かに接近し、松前家の密貿易情報を条件に身請けを願い出るという交渉が行われます。
しかし、田沼意知は「花魁が座敷で見聞きしたことを漏らすのは品位を欠く行為だ」としてその申し出を断ります。
情報と引き換えに自由を得ようとした誰袖の目論見は頓挫し、物語の火種として緊張を残す形となります。
恋川春町、筆を折る決断
宴の最中、別の場面ではもう一つの激震が走ります。
狂歌作家として名を馳せた恋川春町が、政演の人気に激しく嫉妬し、「御存商売は自分の言葉遣いの丸写しだ」と怒りを爆発させます。
その怒りのままに、「これにて御免!」と宣言し、筆を折ってしまうのです。
狂歌会は一転して重苦しい空気に包まれ、残されたのは砕けた皿、酒の匂い、沈黙だけ。
華やかな宴に潜む創作者たちの葛藤と誇りが、強烈なコントラストで描かれています。
ユーモアと緊張の絶妙なバランス
そんな張りつめた空気の中、春町が放った放屁によって場が一瞬和み、緊張と緩和のバランスが絶妙な演出で保たれます。
この放屁シーンは一見ギャグのようでいて、人間らしさを象徴する描写でもあります。
文化人たちの誇りと劣等感、政治家たちの策略と理想、吉原の女郎たちの自由への希求──それらが複雑に絡み合う空間としての吉原。
第21話ではその場の持つ象徴性が巧みに活かされています。
べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜第21話の物語を総まとめ
第21話「蝦夷桜上野屁音」では、幕府の北方政策と出版界の攻防、そして吉原で繰り広げられる人間模様が同時進行で描かれ、本作のテーマである“政と芸のせめぎ合い”が色濃く浮かび上がりました。
田沼意次と意知の蝦夷地天領化計画は、経済と外交の観点からも現実的な迫力をもって進められ、工藤平助の思想を元にした政策がついに将軍の耳に届きました。
松前藩との摩擦が予感される中で、情報戦を仕掛ける意知の冷静さと、将棋を通じて将軍と対話する意次の老練さは対照的でもあり、親子の政治的連携が高く描かれています。
一方、出版パートでは、蔦屋重三郎が自身の未熟さを痛感しながらも、歌麿との関係を深め、商業と芸術の狭間で葛藤しつつ歩みを進めます。
「指図」の重要性に気づき、摺師や絵師との関係性を見直す様は、現代のクリエイターにも通じる職人気質の原点を感じさせます。
そして、歌麿との友情が揺らぐことなく強化されていく過程には、本作が描く“人を信じて育てる”という裏テーマが反映されているようです。
吉原では、狂歌の宴を通じてさまざまな立場の人間が交錯します。
「花雲助」に扮した田沼意知、彼に接近する誰袖、そして筆を折る恋川春町──それぞれの動きが物語の緊張感を高めつつも、ユーモアと哀しみを交えた江戸らしい空気が漂います。
特に春町の放屁による場の転換は、シリアスな場面を和らげるだけでなく、登場人物の人間味を際立たせる秀逸な演出でした。
そして、吉原の花魁・誰袖による密告という“裏の動き”が、次なる波乱の幕開けを予感させ、物語全体に緊張を残して幕を閉じます。
政(まつりごと)と芸(わざ)、この2つの軸が互いに影響し合いながら動いていくのが『べらぼう』の魅力であり、その頂点とも言えるのが第21話だったと言えるでしょう。
今後は、蝦夷地天領化をめぐる松前藩の対応、意知の諜報戦の行方、そして蔦重が歌麿をどう売り出していくのか──これらの点が注目の展開となります。
第22話以降の物語も、より深く、より濃密に「江戸」を描いていくことが期待されます。
- 田沼親子が進める蝦夷地天領化計画の発端
- 松前藩の抜荷疑惑と証拠探しの緊迫
- 将軍家治が示す北方政策への意志
- 錦絵『雛形若葉』を巡る出版界の競争
- 「指図」の重要性と蔦重の成長
- 歌麿との友情と絵師交代の決断
- 狂歌会に潜む田沼意知と誰袖の密談
- 恋川春町の嫉妬と筆折りの衝撃
- 放屁による場の転換と人間味の演出
- 政と芸が交差する江戸の深層描写
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