ドラマ『あなたを奪ったその日から』第7話では、登場人物たちの心の奥底に隠れていた本音が次々と露わになります。
吉野みち(奈緒)と夫・陽一(永山瑛太)の間に横たわる“越えられない壁”、新名(岩田剛典)との切ない距離感、そしてそれぞれの裏切りと葛藤──。
この記事では、第7話のネタバレを交えながら、「体」と「心」の浮気の境界線に揺れる彼らの感情を丁寧に解き明かしていきます。
- 陽一の告白がみちを深く傷つけた理由
- 新名との再会が描く“すれ違い”の切なさ
- 誰もが加害者にもなり得るという視点の提示
陽一の衝撃告白と、みちの崩壊
第7話の冒頭で描かれたのは、夫・陽一の口から語られた、信じがたい本音でした。
「みちとだけ、セックスができないんだ」
その言葉は、長年寄り添ってきた妻・みちにとって、人格の否定にも似た、深く鋭い棘となって突き刺さります。
「みちとだけセックスができない」…その理由とは
陽一がみちに対して性的欲求を感じられないという告白は、夫婦の関係性そのものを揺るがすものでした。
愛がないわけではない。
それでも“男”としての感情を向けられないという事実は、みちにとって「女としての自信」を根底から揺るがす出来事だったのです。
みちが受けた“二重の裏切り”と心の空白
さらに陽一は、一度だけ浮気したことも明かします。
肉体関係があったかどうかではなく、自分に向けられなかった欲望が、他の誰かに向けられていたという事実が、みちを深く傷つけました。
「どうして私じゃなかったの?」──そんな問いは言葉にならないまま、みちの心に空洞のような沈黙を残していきます。
崩れ落ちた日常と“自分を守る”という選択
家を飛び出したみちは、新名との約束の場所へ向かいます。
でも、そこにも彼の姿はない。
どこにも自分の居場所がないように感じた彼女が、手に取るのは“自分を守る”という決断でした。
誰かに癒やされたいわけじゃない。
ただ、誰かになりたかった自分を、そっと許したい。
そんなみちの揺れ動く姿は、多くの女性にとって「わかる」と言いたくなる痛みだったのではないでしょうか。
新名との再会と、すれ違いの余韻
第7話では、みちと新名──“惹かれ合っていたはずのふたり”がすれ違っていく様子が静かに描かれます。
言葉にはしなかった想い、選ばなかった未来。
そのすべてが、ふたりの距離をじわじわと引き裂いていくように感じられました。
約束の場所に新名はいなかった
陽一から逃げ出すようにして向かった、あの“約束の場所”。
みちの表情には、「ここに新名がいてくれる」と信じた祈りのようなものがにじんでいました。
けれど──そこに彼の姿はありません。
静まり返った空間に、みちだけがぽつんと立つ構図は、「誰にも寄りかかれない孤独」を象徴しているようでした。
「元の同僚に戻ろう」の意味に込められた想い
新名から届いたメッセージは、「元の同僚に戻ろう」──。
それは明確な拒絶ではなく、“これ以上、踏み込めば壊れる”と知っているからこその自衛だったのかもしれません。
楓との関係、新名自身の罪悪感。
そのすべてを背負いながら、新名は「自分では癒せない」と悟ったのかもしれません。
気持ちはあるのに、近づけない切なさ
惹かれ合っていたことは事実。
でも、今のふたりには、「近づく理由」よりも「離れる理由」のほうが強く存在している。
それはきっと、誰かを傷つけたくないという優しさでもあり、自分自身が壊れたくないという防衛本能でもあります。
このすれ違いの余韻こそが、第7話の中で最も心を締めつける瞬間だったように思います。
楓と陽一、揺れるパートナーの葛藤
第7話では、“当事者”であるみちや新名だけでなく、その周囲にいる楓と陽一の内面にもスポットが当たりました。
どちらも「された側」であるはずなのに、どこか自分の中にも“後ろめたさ”を抱えている。
この2人の葛藤は、物語に“誰も完全な被害者ではない”という視点を加えていきます。
楓を拒んだ新名の記憶と罪悪感
「やり直したい」と願う楓の想いを、新名は受け止めきれませんでした。
一緒に暮らしてきた過去があるにもかかわらず、楓に触れようとした瞬間、みちのことが頭をよぎる。
それは、肉体的な裏切り以上に、自分自身の気持ちが“もう戻れない”場所にあることを突きつけられる瞬間でした。
新名が楓の唇に触れず、背を向けたその背中は、“許されない自分”への罰のようでもありました。
陽一と結衣花の会話が示す“自分への甘さ”
陽一は、カフェ店員の結衣花に自分の浮気を打ち明けます。
「言わないつもりだった。でも、もう全部終わらせたいんだ」
その言葉に対して結衣花が返したのは、「それ、全部自分のためだよね?」という冷静な一言。
それは陽一が誰かを傷つけたという事実から逃れようとしていたことを、はっきりと突きつけるものでした。
“傷つけたくない”ではなく、“傷つけたくないと思う自分”
どちらも、相手を大事に思っている。
でも、その気持ちはどこかで「自分の罪悪感を和らげるため」に変質してしまっていた。
この二人の葛藤は、「悪意のない加害者」であることの残酷さを痛感させてくれました。
そして私たち視聴者にも、「自分ならどうする?」と問われているような感覚を与えてきます。
“加害者”にもなり得る視点の提示
第7話の後半では、それまで被害者として描かれていたみちに対して、「加害者にもなり得る」もう一つの視点が突きつけられます。
それは、後輩の北原華(武田玲奈)の、何気ないけれど鋭いひと言から始まりました。
後輩・華の言葉が投げかけた現実
夫に裏切られ、心が壊れそうになったみち。
彼女は後輩の華に愚痴をこぼすのですが、返ってきたのは思わぬひと言──
「でも、みちさんも一方的な被害者ってわけじゃないですよね?」
この言葉に、みちは一瞬言葉を失います。
それは否定ではなく、“本当の痛みは自分だけじゃない”という現実を突きつけるものでした。
みちは本当に“被害者”なのか?
陽一に拒まれたこと、新名に期待してしまったこと。
それらはすべて「される側」の苦しみである一方、その中で誰かを“無意識に追い詰めていた”可能性もまた、物語は丁寧に描きます。
「正しさ」は一つじゃない。
そう気づかせてくれるのが、この視点転換の妙でした。
“誰かを責める”より、“自分を見つめる”という選択
このドラマが誠実なのは、「浮気は悪い」「裏切りは許せない」といった単純な構図にしないところ。
むしろ、「あなたのその正義は、誰かを無意識に傷つけていないか?」という問いを、私たちにも静かに投げかけてきます。
みちの物語は、“赦されること”よりも“自分を赦すこと”の難しさを描こうとしているのかもしれません。
『あなたを奪ったその日から』第7話まとめ
第7話は、「浮気」や「夫婦のすれ違い」といった表面的なテーマを超えて、“関係の中で誰もが同時に加害者にも被害者にもなり得る”という深い問いを突きつけてきました。
みち、新名、陽一、楓──彼らはみな、誰かを想い、誰かを裏切り、そして自分自身も傷ついている。
だからこそ、この物語は視聴者の胸をこんなにも締めつけるのかもしれません。
すれ違う心、交わらない本音
誰かと“ちゃんと向き合うこと”は、簡単ではありません。
みちは陽一に、自分の欲しかった言葉をもらえなかった。
新名は楓に、もう戻れない気持ちを隠しきれなかった。
その小さなすれ違いが、誰かの世界を崩していく──それが、この第7話の真実でした。
“心の浮気”が残す痛みと再生の予感
体ではなく、心が離れていく恐怖。
そして、その先で待っているのが、「赦す」でも「別れる」でもなく、“自分を見つめ直す”という一歩なのだと気づかされます。
簡単に再生などできない。
けれど、痛みの中にも小さな希望が宿っているように感じました。
誰もが“被害者”で“加害者”になる物語
このドラマのすごさは、「どちらが悪い」と断罪しないところにあります。
視聴者は、誰かに怒り、誰かに共感しながら、最終的には“自分の中にも同じ矛盾がある”ことに気づかされるのです。
第7話は、そんな“他人ごとではいられない”感情を呼び起こす、非常に濃密なエピソードでした。
- 陽一の「できない」告白と浮気がみちを深く傷つける
- 新名との再会は叶わず、心の距離が明確に描かれる
- 楓と陽一の苦悩が「加害者としての自覚」を浮き彫りに
- 後輩の指摘が、みちにも“加害者性”を突きつける
- 誰もが傷つき、同時に誰かを傷つける物語として深化
コメント